―日本住宅性能検査協会が「サブリース問題」で果たした役割―
過去7年間で相談センター(日本住宅性能検査協会)に持ち込まれた事案約450件余の中で、殆どがレオパレス21社絡みであった。これらコンサルの現場経験からサブリース問題の本質を考察し、健全なサブリース制度発展の灯火としたい。
ちなみにサブリース第1号は矢崎ホワイトビル(1984年3月竣工)と言われている。
「サブリース」の一般用語としては、日本経済新聞最初の記事(1991年8月12日)であると言われている。
1.管理戸数大幅な減少
アパート経営を維持する為に多くのオーナーが大幅な賃料減額を受け入れざるを得なかったとみられ、レオパレス21の管理戸数(2012年3月末時点)資料1が前期比1万5000戸も減少していることから、解約にいたったケースが多数のぼると推測される。ここで問題なのは、レオパレス21の物件は、前述したようにテレビ、冷蔵庫、洗濯機、ベッドといった家財道具がリース物件として備え付けられていることだ。サブリース契約が解除となれば、これらリース物件はリース会社に返却されるため、入居者は家財道具一式を失うことになる。そのためレオパレス21が入居者に対して近隣のレオパレス物件を紹介することで、契約解除時にはアパートが全室空室になって戻ってくるといった自体が多発した。
資料1決算書 P16 管理戸数推移
2.借地借家法で保護されるサブリース業者
レオパレス21が賃料減額や契約解除に関して強気な交渉を行なえるのは、サブリース業者がアパートオーナーとの関係において借地借家法で保護されているためだ。
不動産の賃貸借契約を規定している借地借家法は、契約上の弱者である賃借人の保護が立法趣旨。同法32条1項は賃借人に「賃料減額請求権」を認めており。これは強行規定でもある。一連の最高裁判決では、サブリース契約が不動産賃貸借契約である以上、同法32条1項が適用されるとの判断が示されている資料2。
資料2決算書 P16 管理戸数推移
アパートの賃借人が家賃減額を申し出て、受け入られなければ契約期間中であってもアパートから退去することは一般的でありうる話であり、この関係をサブリース契約にあてはめると賃借人はサブリース業者で、賃貸人はアパートオーナー。サブリース業者が借地借家法で保護されることできわめて優位な立場となり、物件が新しく空室率が低いうちは借上げ契約を継続し、30年一括借上契約を結んでおきながら収益性が落ちたら契約を終了するといった商法を行なえる余地が生じるわけだ。衡平な原則に反する行為と言える。
3.サブリース業者から一方的な解除
「なんのための30年一括借上げなのか」。家賃の大幅減額と契約解除を天秤にかけられたアパートオーナーからは、こうした疑問の声があがる。サブリース契約では、賃料見直しの協議で合意できなければ契約が終了する条項や、一定期間経過ごとの修繕に応じない場合には契約を更新しない条項など、サブリース業者側から容易に契約を解除できる条項が目立つ。入居者が変わる際の室内クリーニング等もオーナー側負担になっていることが多い。
4.50%は全く「長期収支計画」を策定せず
問題は、こうしたリスクやコストなど、アパートオーナーに不利益を及ぼしかねない重要事項について、勧誘するサブリース業者に説明義務を買う法規制が存在しなかった。勧誘時には見通しの甘い説明になるおそれがあり、国土交通省が2004年9月に行なった調査によれば、賃貸住宅の長期収支計画を全く策定していないオーナーが5割近くに上っている。余りにも経営に無関心と言わざるを得ない資料3。
勧誘時顧客に手渡すパンフレットをみても、「30年間の安定収入」「30年空室リスクなし」など、サブリース契約のメリットを強調するキャッチコピーばかりが目に付き、契約解除に関するリスク説明らいき文言は見当たらなかった。アパート経営に将来にわたって大きなリスクとコストを伴う不動産投資事業であるにもかかわらず、勧誘時の説明不足がトラブルに繋がる原因になっている可能性がある。
資料3民間賃貸住宅に係る実態調査(不動産業者) 2007年6月
1.大半の住宅で作成 | 21社 | 11.3% |
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2.半数程度の住宅で作成 | 22社 | 11.8% |
3.大半の住宅で作成してない | 100社 | 53.8% |
4.全く作成していない | 43社 | 23.1% |
合計 | 186社 | 100.0% |
5.衆議院予算委員会で質問
サブリース契約を巡る問題が増え始めていることを受けて、日本住宅性能検査協会(日本不動産仲裁機構)のトラブルコンサル実績及び分析結果に基づき、2013年4月15日衆議院予算委員会第一分科会で共産党の宮本岳志議員が、サブリース契約問題、特にレオパレス21について国交省相手に質問を行なった資料4。
この質疑が発端となり、国土交通省 賃貸住宅管理業者登録制度資料5に、2016年9月から建築提案時から独自のパンフレットやカタログに家賃の減額について記載し、説明する義務を課したが、登録は任意制度であるため、有効性に疑問が残る。
資料5
6.建築営業には何ら強制力がない
現状は、優秀な登録業者以外は殆ど無秩序の状態である。宅建業法のように賃貸管理に関する業法の制定が必要だ。さらに、サブリースビジネスの構造がこの問題を根深いものにしている。借り上げ保証をうたい、地主にアパート建築を進めるのはハウスメー カーの営業だ。あくまで建築請負契約とサブリース契約は別物である。今回の改正内容 は管理業者に対しての義務であり、建築営業に対しては何らの強制力も持たない。
アパートを建ててから賃料減額の説明を聞いたとしても、アパートオーナー側は今更ノーと言えない。サブリース会社と提携関係にある建築会社にも連帯責任を課すべきである。
地主に対して長期の借り上げをセールストークにしてアパート建築の請負だけ先に行ない、サブリース契約は引き渡し後が多いい。対応として業界を横断し、賃貸管理の協会と建築の業界団体で、共通の自主ルールを作っていくことが求められる。ちなみに、レオパレス21はこの賃貸住宅管理業者登録制度に参加していない資料6。
資料6
7.アパートオーナーを保護する法規制が必要
借地借家法の理念は契約弱者である賃借人を保護するもの。サブリース契約では逆転現象が起きている。本来的な契約弱者であるアパートオーナーを保護する法規制の整備が必要である。
- 消費者契約法の類推適用で契約弱者である賃貸人の保護
- 動産サブリース業について直接規制する業法は存在しない。消費者契約法第二条に関し、時代にあった「消者費」の定義の見直しを進める
- リスク性金融商品の勧誘・販売に際して説明義務や適合性原則、広告規制等を課している金融商品取引法並みな規制
- 建築から一定期間は近隣に同じアパートを建てさせないと言ったルール化が必要
土地活用や節税対策などからアパート経営にはいまも根強いニーズがあり、サブリース契約はアパート経営への参入障壁を低くする有効なビジネスモデルである。一方、地方における30年一括借上げの難しさも露呈している。多大な将来リスクを伴うアパートビジネスにあって、長期的に安心してアパート経営に取り組める法規制の整備が喫緊の課題である。
サブリース契約のスペシャリスト「サブリース建物取扱主任者」

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